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地域の需要に合った医療を目指す『総合医』という専門医。継続的な僻地医療の未来を隠岐島前病院 白石先生に伺ってきた

2014/08/12 ysdyt 0 Comments

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地域での医師不足が問題になる中、究極の僻地である離島において『総合医』というポジションを活かしこの問題にうまく対応している医師がいる。島根県 隠岐諸島にある隠岐島前病院の白石医院長にお話を伺ってきました。

この島で行われている医療は、「身近な病院ですべての病気・処置を診てもらいたい」という患者側の要望と、「そうは言って僻地に医者は集まらない」という医師側のジレンマに説得力ある根拠を示しながら、”全てとはいかないまでも”、両者の希望の最大公約数を満たす一つのモデルです。これから確実に、益々問題化する僻地の医師不足問題に対する一つの答えになるはずです。

紹介する隠岐広域連合立 隠岐島前病院は隠岐諸島という島根県本土からフェリーで2時間半ほどかかる離島にある入院用ベット数が44床の小さな病院です。

そんな離島の小さな病院に、年間100人もの医学生や看護学生が研修に集まっています。また、医院長である白石吉彦先生は2014年に地域医療に貢献する医師に送られる第二回日本医師会赤ひげ大賞を受賞されました。「島の医療を10年継続的に出来る人はいない」と言われる僻地医療においてそれを可能とした、理想的な一つのモデルとしてこれから益々注目されそうです。

 

究極の僻地(?) 隠岐諸島と島前病院について

島前病院がある隠岐諸島 西ノ島は本土からフェリーで2時間半ほどかかる人口約3,200人の離島である。島唯一のこの病院は、周辺の2島を合わせて6,200人の健康を常勤6名の医師と看護師で担っている。この6名の医師が内科・小児科・外科外来を担当し、産婦人科・耳鼻科・眼科・精神科・整形外科は本土からの非常勤医師が定期的に診察を行っている。

島の高齢化率(65歳以上人口割合)は40%近く、完全なる少子高齢化・過疎化の土地である。ただ、この世の果てのような場所かというとむしろ逆で、すぐ隣りの島の海士町では「地域活性化といえば隠岐」というくらい話題の土地で毎年多数の視察団が訪問している。

海の幸と自然が豊富な隠岐は観光地としても人気が高い。岩牡蠣の養殖やこの島のブランド牛である隠岐牛などが有名。フェリー以外には出雲と大阪から飛行機を利用することができる。

隠岐の絶景「摩天崖」。放牧で育てられる隠岐牛が自由に闊歩している。

隠岐の絶景「摩天崖」。放牧で育てられる隠岐牛が自由に闊歩している。

島前病院近くの海。吸い殻一つ落ちていなくて感動する透明度。

島前病院近くの海。吸い殻一つ落ちていなくて感動する透明度。

 

地域医療問題の根にあるもの、”医療の細分化問題”

地方の医師不足を語る上で、「専門分野の細分化」というどこの業界でも存在する問題が医療分野でも起こっている。

簡単に言うと専門性が高度化・複雑化し細分化が起こることで他分野との連携が取りにくくなっている。同じ業界なのにすぐ隣の人が何をやっているのかわからない状態にある。

その結果として、「この領域ならホームランを打てるけど、そこからちょっとでもハズレると完全に門外漢」という非常に狭くて高い専門性を持った医師が大量生産される現状があるらしい。これは治療技術と科学の発展の成果でもあるのでこの流れ自体を良いか悪いかということはできない。

また、医師にももちろんキャリアアップは重要であり、キャリアに伴って変化する「手術や診断の回数」、「最新の機器に触れる環境」などは非常に重要である。特に、高度な専門性を要求される医師にとって最新の技術を常にキャッチアップし続けるためにはやはり地方の病院よりもカネ・ヒト・モノが集まる中央の病院が有利となる。向上心のある優れた医師ほど最先端の機器を使った難しい手術ができる機会を欲している。

このように、僻地が医師を求めている現状と専門性を高めたい医師が求めていることは互いのニーズが合わない状態にある。高度な専門医は地方の病院に積極的には来たがらないし、仮に、優秀な専門医が地方医療尽力のために情熱を燃やし赴任しても「糖尿病研究のための膵臓のランゲルハンス島に関する話なら任せて下さい」という「狭く高いスキル」では活躍できる機会は限られてくる。

 

「総合医」という専門医

そうした僻地医療のニーズを満たすために活躍が期待されるのが『総合医』と呼ばれる専門医である。

総合医は字のごとく、内科や外科、特定の臓器や疾患に限定せずあらゆる患者に対応する医師のことを指す。昔はそういった医師がたくさんいたのではないかと思う。現代では、キャリアアップを考える医師には、総合医の定義や既存の専門医との区別がまだ不明瞭であることから、総合医という道を選ぶにはまだ慎重にならざるをえない部分があるらしい。

しかし、隠岐のようにたらい回しする病院そのものがない(救急車も一台しかない!)ような離島では、運ばれてきた患者は必ず処置に当たらないといけない。専門ではないからといってすぐに別の病院を手配できる環境ではない。僻地の医療では外科や内科という分野を跨いで患者を診ることができる総合医が求められている。

 

地域の医療ニーズを知る重要性

僻地医療について、月刊地域医学に掲載された白石先生方のレポートが非常に興味深い。

そのレポートは、隠岐島前病院における外科外来の患者を対象として「どのような症状」が「どれくらいの頻度」で受診されたかを調べたものである。つまり、その地域における外科医療のニーズを明らかにしたものである。

それがわかれば何が嬉しいかというと、その地域の医療を担当する医師が「どれくらいの知識と技術」が必要とされるかを示す一つの定量的な指標が得られることである。

例えば、若い人が比較的多い土地なら若い人に起こりやすい症状を、高齢者が多い土地なら高齢者に起こりやすい症状の知識や処置法を優先的に習得しておけば、それだけ地元の病院だけで治療を完結することが可能になる。特に隠岐のような離島やアクセスの悪い山間地域では、地元の病院で処置できず本土や都市部の病院に紹介することになればその患者の医療コストは一気に跳ね上がってしまう。

その土地の医療ニーズに合わせた医療の提供は非常に重要であり、ニーズを把握しておくことの価値はかなり高い。

「そうはそうだけど、怪我や病気のように突発的に起こるものに本当に対応しきれるの?」と思うのが普通である。次に示すデータはそれに対する一つの答えとして非常に面白いと思う。

 

医療にも現れるパレートの法則

下の図は、先のレポートで掲載されている2011年4月1日から一年間分の島前病院で診断した初診患者(3,705名分)の病名とその頻度である。

初診患者の診断名一覧

初診患者の診断名一覧(参考資料2より引用)

このデータから、初診患者のうちのほとんど(86.9%)が外科医療に偏っていることがわかる(整形外科:53.1%、皮膚科・形成外科:29.8%、外科:4.0%の合計)。

病院といえば、風邪などで総合内科に掛る人が多そうなイメージだがその受診者は比較的少ない(総合内科:0.9%)。初診患者のこの分布は、再診を含めた場合でもほとんどかわらないらしい。

 

次に、これらの患者に対して実際に行った検査・処置項目がまとめられている。

行なわれた検査・処置一覧(参考資料2より抜粋)

行なわれた検査・処置一覧(参考資料2より引用)

先に示されたように、外科診療が多いことから処置項目の上位はそれらに対応した処置となる。

非常に興味深いのは、処置頻度の多い上位20項目の処置だけで、全体の処置の9割を占めていることである。短略的にいえば、これら20項目の知識と処置法を取得しておけば、ほとんどの患者の医療ニーズをひとまずは満たすことができ、本土の病院に紹介することなく島内だけで治療を完結することができる。

隠岐島前病院での僻地医療がうまく回っているのは、このように地域の医療ニーズを的確に捉え、特にニーズの高い処置を総合医が優先的にカバーしているからである。

島前病院の医師はこれらの特に求められる20項目の処置を、「総合医」としてそれぞれが一人で遂行することができる。一方、医療が細分化されたある規模以上の病院ではこれら20項目を何人もの先生が分担して処置している。総合医がいる病院とそうでない病院では必要とされる医師の数がかなり変わってくることがわかる。またこれら20項目の処置の取得難度は内科系のような異なる領域の医師でも3~5年の勤務で習得できる内容らしい。

もちろん、この医療ニーズの分布は高齢者が多く、体を動かす仕事に従事する人が比較的多い離島であることが大きく影響している可能性がある。しかし、これから全国で少子高齢化が進めば各総合病院に求められる医療ニーズは島前病院で示されたこの分布に似通っていくことが想定される。そうした時に総合医の存在は非常に価値が高い。

他の病院も自院で行った処置を集計し、その土地の住民の医療ニーズを捉えているのだろうか。例えそうだとしても島前病院のようにデータを活用することは難しいかもしれない。
なぜなら、通常、一定以上の規模の街では近隣にいくつかの専門病院があり、個々人は好きな病院を選んで通院している。なので、特定の病院が「地域全体の医療ニーズ」を捉えることは難しい。島前病院がこのような興味深い医療ニーズを集計することができたのはそこが離島であり、その島に住む住人の医療を一手に担っているからという特殊な環境条件が存在するからである(もちろん、隠岐にもさまざまな理由でわざわざ本土の他の病院に通っている人もいるとは思う)。

しかし将来的には、マイナンバー制が導入されれば住民の医療記録を匿名で集計することでその地域の正確な医療ニーズを明らかにすることができるかもしれない。そうなれば島前病院のように医師がその地域の患者のニーズに合わせた医療技術を効率的に学ぶことができ、医師の負担の軽減、患者と医師のミスマッチを減らし、待ち時間の短縮や大病院への患者集中も緩和できるかもしれない。

 

医師不足問題を抱える地方で必要なのは”総合医”

日本がますます少子高齢化をたどり、さまざまな人材不足を抱える過疎地は確実に増える。最近は都市部で「地方ブーム」がにわかに起こっており、大企業をやめて地元にUターンする人や、有名大学の学生が休学までしてIターン的に田舎に入って活動する話を見聞きするようになった。しかし地方における「医師」の人材不足はこれからもますます問題化することが予想される。

離島にある隠岐島前病院では”総合医”の必要性をデータで示し、実際に継続的な医療を続け成果をあげている。その成果は、島根の、さらに本土からフェリーで2時間半あまりかかる土地であるにも関わらず全国から視察団や医学生の短期実習生、Uターン・Iターン職員を集めているほどである。

人材が不足している地方において「医師が足りないから増やそう」ということではなく、その地域の需要に合った医療を目指すことが重要である。そしてそれは特定の専門分野だけを診る医師ではなく、総合医として地域に求められる医療を広く提供できることが必要とされている。

また白石先生は、医師は自らの限界を知ること、適切なタイミングで専門医へ紹介すること、そのための連携作りも大切だと話されていた。

実際に島前病院では診断の86%ほどが総合医により完結するが、残りは専門医への相談・紹介が行われている。また、脳出血や心筋梗塞など緊急を要する患者や高度な医療器具を必要とする治療などはドクターヘリで1時間半から2時間かけて本土の病院へ搬送されるが、受け入れ先の病院は島前病院と提携を行っている島根県立中央病院や松江赤十字病院であり、それらの病院とは電子カルテによって患者情報が事前に共有されているためスムーズな医療搬送が可能となっている。普段から本土と隠岐を結んだネット回線による遠隔診療も行っており日常的な病院間連携も進められている。提携病院との役割分担を整理し、全てをやるのではなく、島前病院でやるべきことと出来る事を明確化することが求められる。

 

また、地域医療における総合医の重要性を広めるため、意識してさまざまなメディアで情報発信をされているのも印象的だった。白石先生のインタビュー記事はもちろん、島前病院のホームページでも、医大生への体験実習の申し込みや「島の病院の働き方」の紹介、さらには看護師の方々のブログページまで存在し、受診したい患者のためというよりは「島の外から仲間を集めるため」の工夫がされている(島の人達はとっくに病院のことは知っているため)。Facebookページでも実習生や視察団の様子が発信されており、この病院がいかに外部から注目されているかがうかがえる。

2017年には、内科や外科など従来からある「基本領域専門医」(18領域)に、総合医を追加した19領域とする新専門医制度がスタートの予定らしく、オフィシャルにポジションを認められる総合医が今後の地域医療をどのように変えていくのか注目したい。

隠岐島前病院 白石医院長と。ただの”イケメン”ではない、人柄がにじみ出る非常に良い御顔。

隠岐島前病院 白石医院長と。ただの”イケメン”ではない、人柄がにじみ出る非常に良い御顔。

 

最後に。

たくさんのお話を伺った後いろいろと考えてみた。新専門医制度が始まった後、果たして過疎地に医師は増えるだろうか。

個人的には、おそらく状況は今とそれほど変わらないのではないかと思う。なぜなら地域医療に尽力する医師は制度によって作られるものではなく、その医師自身の意志によって作られるからである。

白石先生、奥さんで女医の白石裕子先生、他の医師や看護師長さんとお話してみて、島前病院が継続的な医療を提供し続けられるのはここで働く人たちに理由があるように思えた。島前病院のみなさんは間違いなく魅力的な方たちだった。

多くの人が地域医療・離島医療がどういうものかを勉強するために島前病院を視察するが、実際には「白石先生とそこで働く仲間の方たちは何を思い地域医療に従事するのか」「隠岐で働く理由は何か」を知りたいと思っているはずである。仕組みそのものよりもその立役者達に興味がある。

注目される土地には必ず人を惹きつけるキーパーソンがいる。秀逸なシステムや制度によってうまくいっているように見えて、実はそのキーパーソンがすべての要になっていて、その人が何らかの理由で土地を離れると嘘のようにうまく回らなくなった例はたくさん存在する。隠岐の島という僻地の医療においてはそれが白石先生であった。

総合医を専門医制度に加えることは、新たに過疎地の医療を救うというよりは、すでに地方で実践している医師を後方支援する意味を持つと思う。そして、そういった医師は制度があろうとなかろうと変わらず地域に尽力されている。以前のエントリーにも書いたが、地方に人を集めるには制度やお金をつけるのではなく、「人を引きつける魅力的な人」を育成するしかないのだと信じている。

白石先生も35歳の若さで医院長になられ、権限と責任を与えられた。そして地域医療のロールモデルを作るべくさまざまな仕組みを実現され、今日のように日本中から職員や視察団を集めるようになられた。もしも、序列で決めた勤務年数の長いだけの人が医院長になり、白石先生のような人が決定権を持たない不自由な立場に押し込められていたら今のような島前病院はなかったかもしれない。

白石先生が説かれるように、総合医はこれからの地域医療に間違いなく必要な専門医になると思う。しかし残念なことに、総合医が赴任したから地域医療が改善されるわけでない。「人を引きつける魅力的な総合医」が地方医療に真剣に取り組む事で初めて、仲間を集め、医師不足を解消し、地域の医療が改善されるのだと思う。新専門医制度というシステムの導入は二次的なサポートである。今回の訪問を通して、 地域医療を救う総合医とは、地域とその健康に真剣に取り組む態度そのものであると感じた。

この拙いエントリーをきっかけにでも、隠岐や地域医療に興味を持っていただければ幸いです。

 

(追記)

隠岐の地域医療の話とは少し脱線しますが、個人的には「内科の受診者が少ない」というところが少し気になりました。このエントリーを改めて読んでいて思い出したのが財政破綻した夕張市での医療の話です。

医療崩壊のすすめ| Hiroyuki Morita|TEDxKagoshima

どんな話か掻い摘んで言うと、

・財政破綻した夕張市では、市立病院が無くなり街から救急病院が無くなった。
・しかし反対に、死亡率・医療費・救急車の搬送回数、全てが下がる結果となった。
・どうやら原因はその地域の人々の医療に対する付き合い方、健康に対する意識が変わったからっぽい。

話されていないところでいろいろとありそうな内容ではありますが、「最近は医療サービスが必要以上に過剰に消費されているのではないか」と個人的には感じているので、納得できるところもあります。

隠岐の人々も夕張市の人と同様、「こういう環境だから大きな病気に罹らないようにしないと」という意識が(無意識にでも)働き、日々の行動に少しずつ影響した結果として、そもそもの病院利用回数減に繋がっていたりするのではないかとも思ったりしています。自分の健康は決して他人事ではない事をしっかり意識すること、ですね。

 

参考資料

  1. 隠岐広域連合立 隠岐島前病院
  2. 小規模離島における内科系総合医による外科外来の試み : へき地小病院外科外来の疾患頻度と必要な技能
  3. 隠岐島前病院における離島医療と保健医療福祉の連携について
  4. へき地・離島医療を支える 総合医による複数制と総合看護
  5. いきいき広域 隠岐広域連合広報誌 第18回
  6. 「介護と医療」を一つに 白石 吉彦
  7. 隠岐島前病院が目指す離島医療と救急
  8. 専門医の在り方に関する検討会と総合医・総合診療医
  9. 専門医としての「総合医」を育てる新制度が開始する
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