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ユネスコ無形文化遺産 石州和紙の紙漉き体験とイルカ文明はなぜ発展しなかったのか、という話

2015/08/23 ysdyt 1 Comment

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島根県浜田市に息づく手漉き和紙の伝統文化、「石州半紙」の手漉き体験会が東京に出張されるということで参加してきました。

知らない人も多いと思いますが、石州半紙は2009年に「ユネスコ無形文化遺産」に登録された、1300年もその技術が続く立派な伝統文化なのです。
ちなみに「石州半紙」と「石州和紙」の関係性は、「石州半紙」が島根の特定の土地に継承されている「手漉き技術そのもの」を表し、「石州和紙」はその技術から作られた和紙のことを指すそうです(間違ってたらごめんなさい…)

かつては多かった職人さんも、今では極少ない人数(4つの工房だけ!)となり、その方々が石州半紙のオフィシャルの登録職人さんとして生産・文化保存を担われているそうです。

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体験前に簡単なレクチャーをしてもらう

和紙といえば、習字の半紙や和室の障子紙に使われているイメージですが、耐久性の高い石州和紙は他にも様々な場面に利用されているそうです。

例えば、かつての大阪商人はお店の帳簿をつけるために好んで石州和紙を使っていたそうで、いざ火事になった時には、命よりも大事な帳簿を井戸に投げ捨て焼失から守り、鎮火後に井戸から引き上げ乾かして使っていたとというほど実は水にも強い物性なのだそうです。紙なのに。
また、天然の素材だけを使って職人技によって漉かれる紙は、植物繊維のダマダマがなく均質な厚さで成形される(漉かれる)ため、和紙の植物繊維の固まりを好んで食べる虫からも狙われにくく、『1000年経っても劣化しない和紙』と言われているそう(むしろ紙が白くなって書かれている文字も鮮明になる)。

普段使いする紙としてはそこまでの耐久性は必要ないですが、美術品や文化遺産の修理等には今でも重要な素材として用いられているそうです。

他にも、座布団のカバー(!)のような装飾品や小物の材料としても使われており、現代では利用シーンが減ってしまった和紙の新たな使い方も模索されています。浜田市の地元の中学校では、卒業生が自分が漉いた和紙が自分の卒業証書になるそうです。むちゃ良いですね。

そして本筋の手漉き体験の話ですが、、、
けっこう綺麗にできました!!!(ドヤ

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チョウチョも和紙の切り抜き。丸くポツポツなっているのはわざと水滴を落として模様をつけています(無い方がよかったかも)

と言っても、ずっと職人さんに隣で補助してもらっての体験なのでそもそも失敗はしないですね。

今回はA3の少し大きめの紙を漉かせてもらいましたが、実際に紙漉きにとりかかってから和紙を乾燥して完成するまで15分もかからないほどです。

「紙を漉く」工程は、リズミカルに水をすくって捨てるという、「和紙といえば」というアノ作業です。そしてお察しの通り典型的な「簡単そうに見えるけど、やると難しい」作業だったりするのですが、プロに補助していただくお陰で思っていたよりはサクッと綺麗に出来て驚きました。(あまりにサクッと出来てしまうので「もうちょっとやりたい…」というくらい)

体験では、少し薄めになるように紙を漉いたので、照明にかざすと向こう側が薄っすら透けて見える感じです。それでも紙はやや自然物っぽいクリーム色で、素人が漉いた感じがわかる、植物繊維の”もろもろ”が少し残る感じが逆に素敵な感じ。和紙の縁には繊維のケバケバが残っていて「手作り感」がわかるのもこれまた良い感じです。紙を作ったけど、もったいなくて文字を書くことなんて出来ない…なんというジレンマ。

石州和紙は、字を書き残す媒体としてだけではなく、同じく島根の伝統文化である「石見神楽」の舞台道具や衣装の材料にも使われるそうです。和紙で神楽のお面や服を作るというのは意外な感じですが、字を書くだけに使うのももったいない感じがするのでお面のような「形として残る物」に使うのも素敵な使い方だと思います。地元の伝統文化が関係しあっている、という点も素敵です。

他の使用用途には、うちわ、子供用のくつ(!)、照明、名刺紙などいろいろあり、素材の応用の高さ・可変性の高さに驚きます。他の土地で作られる和紙には、現代のプロダクトに合わせて、iPadやPCのケース素材に和紙が使われているものもあります。僕も幾つか持っていますが、プラともフェルトとも皮とも違う触感のおもしろさ、そして単純に「かっこいい」感じがして好きです。

ここからは与太話ですが、、、
以前読んだ人工知能に関する本に、「イルカやくじらの脳の体積はかなり大きいので『イルカ文明』みたいなものが発達してもおかしくなかった、ではなぜそういう発達が無かったのだろう」というネタ話が載っていました。

これに対する答えとして、「海にいる生物は書いたものを残すことが出来ない。だから何か書いてそれを残して次の世代に伝える事ができないから」と書かれていました。真実は分からないにしても、その視点は非常に面白く感じます。

確かにホモ・サピエンス以前の動物が言語を獲得する前は、動きや鳴き声でコミュニケーションをし、親から子へ生きる方法を伝えていたのかもしれません。そこから発展し、言語を獲得してもそれだけでは一世代分しか知識の継承ができません。
そこからさらに発展し、文字っぽいものを獲得し、石や木に情報を書き残し始めてようやく世代を超えて知識を共有することができます。
もっと進んでついに「紙」を発明することで、ある程度長く情報を保存し、かつ簡単に多数の人にバラまく手段ができます。紙は紙でも、経年劣化しにくい「質の良い紙」があれば、さらに長く情報を残し、知識や文化を継承することができ、それによって当時のヒトの生存率や生活の豊かさを底上げすることができた非常に重要な道具だったのだろうな、と妄想しておりました。もしかしてこの15分で漉いた和紙のような紙こそが日本を豊かにしてきたの、か、も、、、

今となってはコピー用紙のような1000枚単位で数百円しかしない紙もたくさんありますが、そう考えると「文字を書き残せる事」ってなかなか感慨深い感じがします。。。当時の人達にとって、「紙」は「知識」そのものだったのではないかと。上記の本では、「じゃあ海にたくさんタッチパネル沈めて情報を残せるようになるとイルカ文明出来るかもね」と続くワケですが…

そんなこんなで、「紙を自分で作ってみる」というにもなかなか乙な体験ですよ。

 

(P.S)
今回の東京での手漉き和紙体験は、島根の西田和紙工房の方にお世話になりましたが、実は去年の夏にも個人的な興味で(島根の)工房にもお邪魔させて頂いておりました。

紙漉きの設備や手漉きの工程やもちろんですが、原料となる楮(こうぞ)や、紙漉きに非常に重要な役割をするトロロアオイという植物のお話など、工房の全てがとても興味深かったです。(その辺の詳しいお話はこちらを参照)

島根県まるまる市の西田和紙工房さん

島根県浜田市にある西田和紙工房さん

石州半紙の原料となる"楮(こうぞ)"と呼ばれる植物

石州半紙の原料となる”楮(こうぞ)”と呼ばれる植物。成長スピードが早く半年で4mくらいになるらしい。CO2もたくさん固定する植物

茹で上げられた楮は一度天日で干される

茹で上げられた楮は一度天日で干される

均一に紙を"漉く"工程。写真は西田和紙工房の継承者、西田勝さん

均一に紙を漉く工程。写真は西田和紙工房の継承者、西田勝さん

もちろん紙は一枚ずつ漉く。この繰り返しが現代まで続いてきたのか...

もちろん紙は手で一枚ずつ漉く。この技術が現代まで続いてきたのか…

写真ではわかりにくいけど、けっこう粘度がある。ネバッてます。

アオイトロロの根。写真ではわかりにくいけど、けっこう粘度がある。ネバッてます。

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石州和紙の座布団カバー!

完成された和紙。用途に分けて大きさを切り分けられたり下地が付く

完成された和紙。用途に分けていろいろな大きさに切り分けられたり下地が付くそうです

(参考)
・石州和紙
http://www.sekishu.jp/index.html?p_num=1

・西田和紙工房
http://www.nishida-washi.com/

・石州半紙 工房かわひら
http://www.kaminokunikara.jp/

和紙の製造工程が動画で詳しく紹介されています

 

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