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”プラチナデータ”な未来は本当に来るのか?

2013/04/18 ysdyt 0 Comments

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慶應SFCに入る前から、「絶対に受けよう」とすごく楽しみにしてた授業がありました。その名も「ゲノム解析ワークショップ」!

「ヒトゲノムとか言葉は聞くけど、実際にそこから何がわかるの?」ということを大きなテーマに、実際に自分のPC上でヒトゲノム解析を行い、ゲノムについて理解を深めるという授業です。

授業で扱うヒトゲノムはSFC先端生命科学所長の冨田教授のものです。冨田教授のゲノムデータはwebに公開されていて、研究者でなくても誰でもダウンロードする事ができます。(スゴい時代だなぁ)

大学1,2年生向けの授業の一つとしてシレッとシラバスに載っていますが、実際に「ヒトゲノムを解析し、その解析結果をそのゲノムの張本人の前で発表する」というこの授業は、世界中探してもSFCだけで行われる超貴重な内容です。何てったって、これまでに実名で全ゲノム情報を公開した人は、DNA分子構造を発見したノーベル賞学者のJames Watson博士、ヒトゲノム計画の立役者の1人であるCraig Venter博士、パーソナルゲノムプロジェクトリーダーのGeorge Church博士などなど数えるほどしかいません。冨田先生は日本人初の実名公開者。ゲノム情報は「究極の個人情報」と言われていて、それをwebで公開するという、ある意味で「究極の露出ky….(ry」

先日第一回目の授業があったのですが、第一回目からwktkすぎる内容!
ゲノムにまつわるこの分野は近い将来、「自分は学者じゃないから関係ない」と言って済まされる話ではなくなってくるはずです。
講師の荒川先生のお話がすごく面白く、初学者にもわかりやす話だったのでまとめました!

 

”プラチナデータ”は日本の近未来?

日本映画史上最も”DNA”という単語がでてくる?話題の映画、
東野 圭吾の「プラチナデータ」が最近話題です。

この映画の内容を要約すると、

全国民のDNA情報が国によって管理される時代。
犯行現場に残された犯人のDNA情報を元に即座に犯人を割り出す「DNA捜査システム」が導入され目覚ましい成果をあげる。しかし、このシステムでどうしても割り出せない犯人のDNAが存在することがわかる。犯人はどうやってこのシステムの穴をついているのか?犯人は誰なのか

的な、そんな感じです。面白いのでまだの人はゼヒ(文庫より映画の方が面白いかも)

 

この映画の気になるポイントは三つ

  • 国民全員のゲノム情報を管理することは可能か?
  • DNAモンタージュは可能か?
  • ゲノム情報を知るとどういうメリット・デメリットがあるのか?
  • (この愛までもが!遺伝子で!決まるのか!? ←どうでもいい)

 

ゲノム管理社会は現実になるのか?

すでに「自分の遺伝子を調べる」ということは(比較的)安く、簡単にできます。
日本ではジェネシスヘルスケア株式会社というところから配送されるキットを使い、唾液を返送するだけで心筋梗塞・偏頭痛・糖尿病・肥満関連・メタボ関連・骨粗しょう症関連・男性型脱毛症関連・アルコール代謝関連などなど68種類の遺伝子の有無やリスクを調べる事ができます。お値段3万円ほど。

アメリカには23andMeという先行する有名なバイオ系企業があり、同様の方法で遺伝子診断を受けれます。お値段99ドル(!)。(ちなみにこの会社の共同創始者は、Google共同創始者セルゲイ・ブリンSergey Brin の奥さんアン・ウォジツキ。なんとスゴい夫婦だ…)

診断結果には、「あなたは糖尿病に〜だけかかり易い。大腸癌には〜だけ。アルツハイマーには〜の確率が…」という、発症確率をまとめた結果を返してくれる。

遺伝子診断自体は最近では珍しくなくなってきたのだけれど、23andMeのおもしろいところは、このサービスを受けた顧客に対して専用のSNSを提供し、

「あなたの遺伝子は〜さんに〜%似ています」というサジェストまで行ってくれるところ。

このSNSでは基本は匿名で行われるものの、連絡先は掲載されている。移民が集うアメリカではこういうサービスをきっかけに偶然同じルーツの親族を見つけて、コンタクトを取り感動の再会(パチパチパチ)、というようなことも起こるらしい。


すでにこのSNSには約20万人分のDNAデータが登録されており、小規模ながらプラチナデータのような遺伝子情報を管理する組織が既に存在していることになる。もっと大規模なDNAデータ集計が行われ、それが一元管理される時代はそこまで遠くない気がする。(しかも国ではなく、一企業が保有しているというのが事実は小説より奇なり…アメリカっぽいですね)

 

 DNAモンタージュは可能か?

DNAモンタージュとは、DNA情報だけからその人の「顔」を予想するというもの。肥満傾向にあるとか、身長はこれくらい、ヒゲが濃いとか髪の毛は後退している可能性が高い、などの詳細な身体特徴まで示す事ができる。
劇中の「DNA捜査システム」でも犯行現場に残された髪の毛などから犯人の顔を非常に的確に描写して、逮捕に繋げていました。

これは現実世界でも既になかなかの精度で行われてます。

 

新領域!?DNA × アート!

Stranger Visions という”アート作品”を作成する海外のアーティストは、道端に落ちていた髪の毛やタバコの吸殻、チューインガムなどからDNAを抽出し、分析。そのデータから他人の “顔” をモデリングする”アート”プロジェクトを展開しています。
作者自身の顔をサンプルとしてモデリングしてるのだが、その精度からもこれらのモンタージュがまんざら外れた予測ではないことがなんとなくわかる。(なんだかグロ怖い。。。)


なんだかいろいろ問題と疑問点がありますが、「こういうことも出来る」という事実の話として面白い。

科学的な成果としても、2010年2月11日号のNatureに掲載された研究では、4000年前のグリーンランドで発見された凍結遺体の毛髪から採取したDNAを使ってモンタージュを行い、その顔と人種を特定したという記事も発表されている。「本当に当たってるの?」という気もするが、世界中の科学界の権威が監修する雑誌なだけに信憑性の低いものではないことは確か。

 

ゲノム情報を管理すると幸せな社会になるのか?

プラチナデータのように、DNAを題材とした映画はこれまでにもあり、研究者でなくともなんとなくのイメージで「遺伝子を管理する時代がくるのではないか….?」という予想をしている人は少なくないと思います。

しかし、それが進まない理由は「自分の遺伝子を調べて、そのデータを保存して、具体的にどういうメリットがあるのかわからない」ということだと思います。

 

ゲノムを調べる事のメリット

一番分かり易いメリットは、ゲノムを知る事で「予防治療」に非常に役に立つということ。

先進国では死因の一番の原因が癌(悪性新生物)であるが、事前に自分が「胃がんになり易い」という情報を知っていれば、そのリスクを下げるように生活習慣を変えることができます。「病気になってから、ではなく、ならないための医療へ」ということがこれからの医療のキーワードになってくるはずです。

また、希少疾患に対する新たな治療法の発見にも多いに可能性があります。日本において希少疾患とは「国内対象患者数5万人未満」と定義されているが、5万人とは決して少ない数字ではありません。学術的にも、希少疾患のメカニズムの解明は、人間の生命システムを解明する新たなヒントとなる可能性も十分にあります。

癌や希少疾患など自分とは関係ない話、と思う人でも薬なら日常的に飲みますよね。
自分の遺伝子傾向を知る事で、あなただけの適切な投薬量などを知る事ができ効率よく薬の効果を得る事や、無駄な副作用を起こさなくてすみます。

血栓を防ぐために投与されるワルファリン(抗凝固剤)は、投薬量が多すぎると血が止まらなくなり、少なすぎると血栓を防ぐ事ができません。なので、数週間かけてその人だけの適切な投薬量を決定するという作業が必要になります。しかし、ゲノムが分かればこの時間は全く必要なくなります。

肺がんの抗がん剤であるイレッサの投薬にとってゲノム情報はもっと重要で、イレッサは処方して効果が得られる肺がん患者は全体の10~20%ですが、もしも効けば75%の患者で癌が縮小します。これほど効果がある薬は珍しいのです。しかし処方して効果が得られない患者には死に至る副作用が存在します。このような諸刃の剣のような薬であっても、ゲノム情報を知っていれば適切な投薬判断が簡単にできるようになります。

 

ゲノムを調べる事のデメリット

世の中には「知る権利」と同時に、「知らない権利」が存在することを知っていますか?

例えば、遺伝子検査の結果、自分がかなりの高確率で若い段階にアルツハイマーにかかると分かったとします。しかし、現代の医学ではアルツハイマーを治す事ができません。こうなると未来に不安しか残らず人生の幸福度はグッと下がるはずです。「知らなかった方が今を幸せに生きられたのに」ときっと多くの人が思うに違いありません。

また「遺伝子による差別」の問題もきっと起こります。というより既に起こっています。

ヨーロッパでは青い目の方が好まれる傾向があり、それが新生児の生み分けの対象になるかもしれません。出生前診断により、重篤な症状をもつ可能性がある胎児は流産の対象になるかもしれません。就活の時にエントリーシートと一緒に遺伝子診断書の提出を求められ、成人病になり易い・短気な傾向にある人は足切りにあうかもしれません。一定以上の発ガンリスクを保つ人は生命保険に加入できないかもしれません。

もっともっとゲスい、しかし実際に起こりそうな話としては、アイドルファンが握手会かなにかでアイドルの生体サンプルを手に入れ、ゲノム情報を調べる(サンプルはなんでもいい。汗でも手の垢でも、飲みかけのジュースでもストローでもガムの捨てがらでも)。そしてそのゲノム情報を2chにでもアップロードすればどうなるでしょう。きっと似たようなことが近い将来起こると思います。

遺伝子診断の概念すらなかった時代の歴史から考えても、「遺伝子がわかる」ことのデメリットはいくらでもあげることができます。

 

結局、遺伝子を知って幸せになれるの?

遺伝子を知って幸せになれるか?これに答えを出す事はできません。なぜなら何が「善」で何が「幸せ」かを定義できないからです。

禅問答に逃げているわけではありません。
例えば、鎌状赤血球症という遺伝子疾患があります。遺伝子の突然変異によって、通常なら丸い形をしている赤血球を作る事ができず、鎌状の赤血球を作り、酸素が少ない環境では貧血になる病気です(日本人にはほとんどみられません)。

遺伝子の組み合わせによっては成人前に死亡する重篤な遺伝子疾患ですが、マラリアに対して耐性をもつことが分かっており、マラリアが比較的多く発生するアフリカではこの遺伝子疾患を持っている人が多い。
この例のように、遺伝子が異なる事で生存に有利に働く事もあり、どのような遺伝子をもって「差別」の対象になるのか、何が「障碍」なのか、「病気」なのか、「個性」なのか判断するのは難しいことです。

 

日本国の将来に絡めて言えば、ゲノムを知る事のメリットとして挙げた「予防医療」は非常に重要なテーマになってくるはずです。

人口の50%以上が60歳以上の高齢者に向かっている日本において、ますます医療費は国の経済を圧迫する切実な問題になってきます、確実に。この問題を解決する一番現実的な方法が、遺伝子情報を元にした予防医療です。タバコに”お決まり”として印刷された警告文よりも、遺伝子診断書に「あなた肺がんヤバいですよ」と書かれる方が生活習慣を見直す機会は当然高くなり、病院に通う人もきっと少なくはずです。
日本を潰さないためにも、「病気になってから、ではなく、ならないための医療」を目指す必要があり、そのための道具として遺伝子診断が候補に挙がる可能性は非常に高いと思われます。

 

 

被災地でのゲノムの動き – 東北メディカルメガバンク機構

最近では、東北メディカルメガバンク機構が被災地の医療と復興を目的に、地域住民の遺伝子情報を集めようとしています。
重篤な災害が起こった場所では心的外傷後ストレス障害(PTSD)や感染症が増加する傾向があり、継続的な長期健康調査が必要とされます。子供・両親・祖父母の遺伝子を調べ、症状として現れる病気と突き合わせる事でさまざまなことが分かると思います。

遺伝子をデータ化し保存することに対して風当たりはきっと強いと思いますが、いい意味でもそうでなくてもこうしたところからもじわじわと医療に対する遺伝子のウェイトは増えていきそうです。

今の日本では出産育児一時金として新生児が生まれると42万円が国から振り込まれます。今よりもさらに低価格でゲノム情報が解析できるようになれば、一時金から一部を「ゲノム登録料」として引かれ、これから生まれる新生児はすべてゲノム情報登録を義務付ける制度が誕生するかもしれません。というより遠くない将来にそうなると思います。人間は新しい技術の可能性を試さざるを得ない生き物です。
これから自分たちは、「知らない権利」をどう捉えるか、自分のゲノム情報をどのように保護するべきかを考えなければならない時代がやってきます。それにはたくさんの問題が浮上しますが、問題があるということはビジネスにもなるという事であり、お金が集まりところには倫理より先に開発が行われます。
選挙と同じように「よくわからないから無関心」ではかなり重めの貧乏くじを引かなければならない時代がもうすぐやってくるかもしれません。

 

第一回目の授業にして、スゴくワクワクする内容!これから楽しみ!

P.S
4.16放送の「ホンマでっかTV」に冨田先生が出演されたそうな。かつてはアサヒスーパードライの初代CMにも出演されていたという謎の経歴があるすごい先生らしい

 

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