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お客は飛行機でやってくる!神社のお蕎麦屋さん – 島根の暮らしを体験する2日間 その② 姫のそば ゆかり庵さん

2014/01/01 ysdyt 0 Comments

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いつの話だって感じですが、2013年9月7,8日 に参加させてもらった「島根の暮らしと仕事を体験する2日間」という企画のレポート第二弾です。今回は奥出雲のお蕎麦屋さんの話です。養鶏場を訪問させてもらった第一弾レポートはこちら

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なぜそんな昔の話を今するかというと、つい先日、半年たってようやく2度目の訪問に行けたから。

前回は夏真っ盛りの9月でしたが、今回は雪だらけの12月でした。松江からレンタカーで向かったのですが、あまりに雪がすごかったのでたどり着けるか心配でした。しかし自然が豊かな奥出雲の2つの季節の景色を見れたのはラッキー。

 

神社を想う蕎麦屋『姫のそば ゆかり庵』

奥出雲の蕎麦屋 『姫のそば ゆかり庵』は稲田(いなた)神社の敷地内にある社務所を改造して営業されている蕎麦屋さん。稲田神社は古事記に登場するスサノオミコトがヤマタノオロチを退治して助けたお姫様「稲田姫」を祭った由緒ある神社です。そして、ゆかり庵は日本で唯一、「鳥居の内側」にある蕎麦屋です。

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 街の中ではなく、人の出入りが少ない神社で営業をする理由は、ゆかり庵の社長 岡田篤志さんの大目的が「稲田神社を守る」ことだったから。

稲田神社(ゆかり庵)がある奥出雲は、島根県内の他の地区と同じく少子高齢化が進む街です。神社を管理する人でが不足していました。

そもそも、神社の経営はどこも非常に厳しいらしく、木造建築物のため定期的に大規模な修繕費が必要となる一方、それを賄う主たる収入は(お賽銭ではなく、)祈願料です。
祈願料とは厄払いや七五三、縁結びや商売繁盛といった個人あるいは団体が行う祈願であり、賽銭よりは遙かに一人当たりの金額が高いのでトータルの額として大きくなります。小さな神社では個人祈願は少ないですが、それでも地鎮祭などの収入は重要な収入になり、また、神社のお札である神札やお守りの収入も重要な収入源となるそうです。しかし、これらの財源も「人が来ない」ことには得ることができません。

一時的な寄付で乗りきれても、再び神社が廃れていくのは目に見えていたためなんとか人がお参りに来るようにする必要がありました。
ボランティアだけではなく、地元民の協力だけでなく、そこに飲食店を開くという「ビジネス」の力も持ち込んだのは岡田さんの才覚だったのだと思います。(寄付が無理なら自分でお金を稼ごう!と考えても、「神社の中で人が集まる飲食店をしよう」と思いつき、実行できる人がどれくらいいるでしょうか。)

岡田さんは元々、商工会事務局長をされていましたが、神社を守るため、そして奥出雲の活性化にも役立つことはできないかと考えた結果、神社の敷地内の社務所での蕎麦屋の開業を決めたそうです。(神社の中での経営は前例が無いということもあり、さまざまな『許可』が必要で非常に苦労されたそうです。)

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2011年に開業され、御歳60歳を超える岡田さんは本当にパワフルな印象の方で、その辺の大学生よりハツラツとされています。そして、こういった人が持っている独特の「人を惹きつける魅力」のようなものを出会ってすぐに感じました。
奥出雲では元々、「横田小そば」という在来種から蕎麦を作っていたそうですが、収量が少ないことからも生産者が減り、今ではほとんど作られていないそうです。
そこで、奥出雲の活性化のためにも岡田さんは横田小そばの「栽培」から始め、自ら収穫し、蕎麦の打ち方もゼロから学んだそうです。仁多米やブルーベリーなども自家栽培し、ゆかり庵で出される食材はほぼ手作りです。

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横田小そばは小粒でも甘み・香り・粘りがあります。それで作られる蕎麦も非常に特徴的な歯ごたえで、味音痴な自分でも他の蕎麦とは明らかに違うことがわかります。コシが強くてすごくモチモチ。
そして同じく驚いたのが仁多米で作られたおむすび。出てきた時からおむすびがピカピカしていることに驚き、食べると「コンビニのおむすびは一体なんなのか?」と心底思わされる謎のおいしさ。

蕎麦とおむすび以外の料理も一品一品にすごく手間がかかっている印象を受けます。すごく上等なものを食べているだなーという贅沢感と、普段食べているものがいかに「過剰に濃ゆい味のもの」なのかを感じます。

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2011年10月のオープンにも関わらず、これまでにこの蕎麦を食べるために遠方から飛行機に乗って島根に来て、空港からレンタカーを乗り継いでくる人がたくさんいるらしいです。お忍びで芸能人が来たり、メディアの取材もあったりして、2013年11月にはNHKの『鶴瓶の家族に乾杯』という番組でゆかり庵が訪問先として放送されたそうで、これからもますますの賑わいを感じます。

夏に訪れた時は「島根の暮らしと仕事を体験する2日間」の訪問先の一つだったため、後の予定のためにあまり長いはできませんでした。「また来ます!」と宣言だけして稲田神社もお参りできず後にすることとなりました。

ゆかり庵

 

真逆の季節に二度目の訪問

そして先日2013年の12月29日に二度目の訪問。

この日は松江でも前日からの大雪で道路にもまだかなりの雪が残っており、「これだと奥出雲もっとヤバイな…」と思っていたら想像よりもさらに積もっていました。
奥出雲までの道中も、駐車している車は車体の半分の高さまで雪に埋もれていていたり、家の雪かきをしている人を沢山みました。この地域の冬の生活は本当に大変そうです。

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「年末だし大雪だし誰も来ていないんじゃないか」と思われたゆかり庵には、予想外にたくさんの車が停まっており、お昼時の12時半頃に到着した頃には、その前後はひっきりなしにお客さんが来ていました。
来る人来る人が先に来ていた人と何らかの繋がりがあるようで、自然発生的に会話が生まれるゆかり庵はまさに地域に根づいた場所であることが感じられます。

夏は割子そばを食べたので、今回は暖かい蕎麦を頼みました。

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夏と同じピカピカの仁多米おむすび。自然な甘さがホントに美味しい。

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夏にもお邪魔したんですよ、とお話するとまた社長さんを呼んできてくれました。
この日も朝から名古屋、大阪などから車でやって来た人がいたそうです。

冬は自作の門松を作っていろんなところにあげているそうです。使われている竹も、稲田神社周辺に自生している竹らしく、放っておくと竹やぶになってしまうので社長自らが伐採し、こうして門松に利用されているそう。

初めて岡田社長にお会いしたときにも思いましたが、改めてパワフルな人だなと。そして、「(良い意味で)なんでも全部やっちゃう人なんだな」と思いました。

島根で地域のことを思い活動されている人のすごいところは、計画から実行まですべて自分でしてしまう人が多いところ。
有意義で大きな活動をするには普通、組織を作って分業して取り組むものですが、こと岡田社長も、社務所での開店許可、横田小そば・仁多米の栽培・管理、そば打ち、経営、神社の維持などなどすべてのプロセスをこなしている。もちろんその裏でたくさんのサポートをしている人がいるのだと思いますが、それにしても「そばの栽培」から始めたり、「そば打ち」もやってしまうあたりが『分業』という言葉とは無縁な感じです。
岡田社長がパワフル、というのもあると思いますが、しかしこの背景にはやはり「人手不足」という地方の問題が横たわっているのだと感じました。

 

地方は都会よりもマルチスキルな人材を求める

とある日のはてブにこんな記事がありました。

【動画】たった8人とは思えない! 次々と楽器を持ちかえる吹奏楽部の演奏にネットユーザー驚嘆「泣ける」「鳥肌立った」|Rocket News 24

少子化によって吹奏楽部のメンバーが8人しかいない島根県大田市立大田第三中学校吹奏楽部の演奏が話題になっていました。
要は、個々の楽器を吹くだけのメンバーがいないので8人がさまざまな楽器を持ち回って演奏している、という動画です(5年連続最優秀賞を獲得し、7年連続で中国大会に出場している名門校だそうです。)

この動画を見た時に、純粋にすごいなーと思ったのと、「地方の仕事の仕方そのものだな」と感じました。人がたくさんいるところでは分業してそれぞれの分野のプロフェッショナルを目指せばいい、しかし地方では分業に当てるだけの人材がいない。ならどうするか。優秀な人が一人何役もやるしかない。

マルチタスクのジェネラリストが求めらるが、個々のスキルはプロフェッショナルにも負けないようにする。先の吹奏楽部の例のようにいろんな楽器を持ち回っても、それぞれの楽器の演奏も高いレベルが要求される。つまり、田舎では人材不足をカバーするために個人に高いレベルでのマルチスキルが求められるということ。「豊かな自然を求めて」とか「都会の喧騒に疲れて」という理由で地方移住を希望するという話がありますが、自分の有用性を示して、地域に必要とされるヒトになるのはもしかすると都会よりも大変かもしれません。「何かひとつはズバ抜けてできるが、それ以外はからっきしできない」は都会で必要とされるスキルバランスであって、地方では有用性が認められないかもしれません。地方で暮らすのは実は都会よりも難しいかも。

人材が不足する地域において、「まちづくり」という更に従事者の少ない分野で活動する人はたしかにこういったマルチスキルを存分に発揮しているように見えます。
岡田社長もゆかり庵の経営と神社の維持だけに留まらず、奥出雲に住む子どもの教育の未来や若者のキャリア、たたら製鉄文化の価値について、まだまださまざまな思惑を思案されているそうです。
特に、教育に関しての取り組みとして夏の早朝にゆかり案を開放し、勉強する学生や一般人に使ってもらっているそうです。また、藻谷浩介氏のような著名人を呼んで公演なども行われています。2月にはなんと立花隆も降臨されるそうです。ちょっとした都市部でもなかなかない事が奥出雲で起こっています。

いろいろお話を伺っていると、こんなに閉塞感が漂う地方でも、「もしかすると都会よりも希望があるのではないか」と思えてくる不思議。文化的にも、旬のモノ・地のモノを食べるという食文化的にも豊かな生活を送っているのは地方ではないでしょうか。

 

今回は稲田神社にもお参りできました。それにしてもすごい雪。

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社務所の蕎麦屋という珍しさか、蕎麦の美味しさか、岡田社長の人柄か、もしくはそれの全部に惹かれて、飛行機に乗り、車を乗り継いで、決して簡単に来れるとは言えない土地に人を集めるほどの人気店でも、大雪となる1月・2月は客足が遠のくそうです。大雪など物理的な障害が発生するこのような所で「土地を守る」ことは想像を絶する困難があることが簡単に想像できます。

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二度の訪問にも快くお話していただいた岡田社長と岩沢さん、本当にありがとうございました。
次は新そばの季節にまた訪問したいです。次はどんな味か楽しみ :)

<追記>
岡田さんのインタービュー動画を見つけました(2012年8月15日撮影)
6:10あたりからインタビューが始まります。

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