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WIRED CONFERENCE 2013 でオープンガヴァメントの世界に浸ってきた

2013/11/03 ysdyt 0 Comments

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wired conf pass

10月31日にアーツ千代田3331で行われた WIRED CONFERENCE 2013 オープンガヴァメント 未来の政府を考える に参加してきました。 主催はWIRED、協賛にはアメリカ合衆国大使館、経済産業省、そしてこれからますますの盛り上がりを見せるCODE for JAPANなどの超豪華体制。WIRED編集長からもトークゲストに関して「このテーマを話すにはほぼベストなメンバー」と言うほどの日本で聞ける(最新|最深)のオープンガヴァメント祭りとなりました。 メディア関係の人もたくさん来られおりこのムーブメントの注目の高さをうかがわせます。

イベント全体の話はWIREDから後日記事がでるはずなので、ここでは個人的に面白いと思った話だけを忘れないうちに書き残しておこうと思います。

 

改めて「オープンガヴァメント」って?

「オープンガヴァメントとは何か」を体系的に一言で説明することが難しくなってきたと感じます。以前までは

行政(government)が蓄積した各種ローデータを「オープンデータ」として公開し、第三者が利用・改変・再配布を自由に行えようにする。こうしたオープンデータの活用を通して、行政や市民との関わり方や距離感を必要に応じて柔軟に対応していく。行政内の「透明性」と市民「参加」、行政と市民の「協働」をキーワードにした開かれた行政。

というような教科書的説明をよく見かけましたが、今回のカンファレンスを通じて、それを簡単に説明しようとするとオープンガヴァメントの理解しやすい一面だけを取り出し、本当の価値の表層だけを示している感覚を覚えました。

なぜ説明するのが難しいか。
それはこれまでの「政府・行政」という確固たる領域に、インターネット的な文脈が入りだしているからだと思います。「透明性」「参加」「協働(相互作用)」はまさしくインターネットの特性です。例えるなら、「インターネット」とはなにか、を話し合う時にエンジニアだけではなく、生物学者・社会科学者・心理学者も解説に参加するような感じ。一方向からの見方では説明できない、だから今回のゲストスピーカーもさまざまな背景の人が登壇したのだと思います。

政府・行政(ガヴァメント)にインターネットの特性が加わることでオープンガヴァメントという大きな変化が生まれようとしています。
政府のような「安定と保守」を司る組織において、変化することが良い事かはまだわかりませんが、今の「総他人任せ国家」状態よりは良い方向に向かうのではないかという希望を感じます。今の政府のあり方は自分の生活に関わること・自分の生まれた故郷のことであっても「自分事」と捉えるにはあまりにも市民から遠くて見えにくいものになってしまっています。

ここからは個人的に印象的だった話だけ箇条書きで。

千代田アーク 331

(会場の千代田アーク331は校舎をリフォームしたような建物。ゲストトークも体育館で行われました。来場者300人ほど?) 体育館

 

アメリカとエストニアの最新事例

アメリカ合衆国初代CIO ヴィヴェク・クンドラ氏 と 元エストニア経済通信省 局次長 ラウル・アリキヴィ氏からアメリカとエストニアの事例の話をそれぞれ。 実はこの2つの話について、既にWIREDからすごく詳しい記事がでています。どちらも未来の行政を体現するすごい事例です。

ヴィヴェク・クンドラ:アメリカ合衆国・初代CIOに学ぶ本当の「オープンガヴァメント」
デジタルガヴァナンス最先進国エストニアに学ぶ「これからの政府」とわたしたちの暮らし

 

「公開すべき」情報と「すべきではない」情報とは

クンドラ氏に対し、会場からの質問で「オープンガヴァメントとして、公開すべき情報とすべきでない情報にジレンマを感じたことは?」という質問が飛びました。
『もちろん個人情報は絶対に出さない。個人に関する情報であっても、データを適切なレベルで抽象化する(生年月日や性別、年齢などで個人を表す)ことで公開・非公開をきちんと決めている』とのこと。
ただ「政府が情報を公開すること」に対する姿勢が、これまでの慣習ではデフォルトで「情報の非公開・非アクセス化」という状態に長くあっただけで、「公開してはいけない」ということではないはず。これからの政府のあり方として、内部情報を公開し、透明化を進めることで「政府は参加できるものであるべき」という意識へ変えていきたいと話されていた。

確かに「行政として」「どの情報を公開するか」は結構難しい問題で、例えば、「公開すべき情報」としてスクールバスの現在地点のGPS情報が公開された際も、利用者には便利な一方で、バス運転手が「常に監視されている気分になる」としてストライキを起こしたそうです。
しかしまた一方では、タクシーの位置情報をスマフォで検索し、アプリからタクシー予約ができるサービス “Uber” が人気を博している。この違いは、利用者の利便性向上と共に、タクシードライバーにとっても、タクシーの利用率をデジタル上でリアルに管理できることでドライバーがいつ・どれだけ働きたいかを選択できるようになったことに起因します。「行政が公開する情報」として、理屈的な正しさと利用者の利益が一致しないと「データを公開する意義」が立たないという例です。

アメリカでは次なるオープンガヴァメントの活用先として、教育や医療分野に関心を高めているそうです。
「なぜ教育はもっとワクワクするような仕組みになっていないのか」「なぜ病院はもっと効率的な診断ができないのか」という事について、オープンデータ活用という視点で方法を模索しているそうです。

例えば、ヘルスケアテクノロジー分野のスタートアップとして、「病院での診察のオンライン予約」や「医師の口コミ」サービスを展開する民間企業が既に複数存在します。こういったサービスは患者にメリットがあることはもちろん、そのサービスを活用している医者は活用していない医者に比べて月間平均約100名多くの患者を診療しているという実績も生まれているそうです。 しかし一方で、「医師の口コミ」というのはいろいろな問題を生みそうな気がします。もしもこういったサービスをオープンガヴァメントの一環として行うのであれば、やはり患者と医師両方が望む形の情報公開になるようにしないといけません。 日本では、行政が持つ医療や教育に関する情報でオープンデータ化されず活用されていない情報がまだまだあります。しかし、医療や教育のように「個人情報」の関与が高い情報をどれくらいの抽象度でオープンデータ化していくか、公開するならどのようなフォーマットで公開すべきかというような話はまだまだこれからのようです。 「情報のアクセス権とは?」「情報を公開するとは?」ということのコンセプトをまとめられたこちらのスライドが面白いです。(スライドのテキストはこちらのブログに掲載されています)

 

未来すぎる行政 エストニア

2000年からペーパレスガヴァメントを推進し、選挙・会社登記・税申告など行政関連業務および市民生活の多くをオンラインで執り行うことができるようにしたエストニアの事例がスゴい。

具体的には、15歳以上のエストニア国民全てに電子IDカードを交付し、それが身分証明書・運転免許書・健康保険証として機能し、納税・会社登記・処方箋発行もカード一枚で完結することができます。 その他、世界初の本物の「ネット選挙」を行い今では投票率90%を達成し、オンライン税金申告でも国民の95%が活用しているらしい。
これによって、年間ですべての納税者がかける約27万時間の納税手続き時間の短縮、また約7万5000時間の税務署員勤務時間の短縮など数字として効果を上げているから立派です。
保健医療分野においても、自分の病歴や通院履歴などはすべて患者単位でポータルサイトに一元管理され、94%の処方箋がデジタル発行されています。薬が切れたときはわざわざ病院に行かずとも、医者に連絡を取ればデジタル処方箋を送信され、それを薬局に見せれば薬を貰える仕組みになっています。医療の効率化にも抜かりがない。

web上でこれらを実現する仕組みとして、電子改ざんや個人情報流出を防ぐセキュリティーの堅牢さや、システムの透明性を担保する仕組みなども先進的で非常に興味深いです。

この他にも、閣議や教育、警察の業務にも見事なまでのシステムが導入されています。 会社登記に関しても、平均18分で手続きが完了します。会社を作りやすくしたことでエストニアではIT企業を中心にビジネスが活性化しているそうです。ちなみにみんな大好きSkypeもエストニアで始まりました。行政が新しくなると新しいビジネスが起こりやすくなるという事例を作り上げました。
また、海外からの移民にも先の電子IDカードを交付することも検討しており、「バーチャルなエストニア人」を増やすことを次の目標の一つにしているらしいです。考え方が新し過ぎる。

ただ、あまりにもすごすぎて他の国で同じようなシステムを作ることは本当に可能なのだろうかと感じます。「ディズニーランドと同じくらいすごいテーマパーク作れる?」って感じ。それくらいスゴかったです。 同じく登壇されていた経済産業省 CIO補佐官 平本健二氏への質問に、「日本のような縦割り行政でもそのようなオープンガヴァメントの仕組みは実現できるか」という質問が飛びました。平本さん曰く、省内でもオープンデータ・オープンガヴァメントの重要性を理解する若手職員が、勤務時間外の交流で垣根を超えて意気投合し、新たなアクションを起こそうとする動きも出てきているそうです。行政の中にもめちゃくちゃクールな人はまだまだいると。新しいムーブメントは一部の若い世代から始まるというのはどこの世界でも同じらしいです。 (エストニアの電子行政と高齢者分布についてちょろっとエントリーを書きました)

地方をIT化すると高齢者は本当に困るのか?

 

 

wired back number

(会場ではWIREDのバックナンバーも並べられていました。毎号表紙がかっこいいので並べると壮観。)

  政府と市民との「インターフェイス」を改善する Code for America

Code for America インターナショナルプログラムディレクター キャサリン・ブレイシー氏のトークでは、「政府と市民の関係性の向上」ということをメインに話が展開された。

「行政窓口に並ぶ市民の列の長さ」こそ「行政とのやりとりの難しさ」「政府とのインターフェイルの悪さ」を表しているという指摘から話が始まりました。 全米から一流のエンジニアを集め、行政機関の元でエンジニアリングなサポートを行う団体 “Code for America (CfA)”。そこへ募集してくるエンジニアのモチベーションは「政府とのインターフェイスを単純で美しく、使いやすいものにしたい」というもののようです。特に、ブレイシー氏個人は、エンジニアリングな部分よりもデザインの部分に重要性を感じ、市民と行政との関係を近づけるために活動されています。 市民と行政との関係を近づけるためのCfAのプロダクトの一例として、”HONOLULU ANSWERS” が紹介されました。

通常、政府のHPでは「免許更新はどうやってやるの?」というようなよくある質問を調べるだけでも5回も6回もHPをクリックしないと回答に辿りつけないという状態でした。そういったよくある質問を簡単に調べられるように HONOLULU ANSWERS が作られたそうです。

拍子抜けするくらい単純な内容のサービスですが、このwebページの肝は、これら街に関わる質問と回答を、政府の人間ではなく、市民が作成したところにあります。 市民が「よくある質問」と「その回答」を持ち寄り、アイデアソンの様な場でこのページを作成したそうです。「市民が質問し、回答する」、この「自分たちがやった、という可視化」こそが活動の動機付けとなり、政府と協働するための市民コミュニティーを形成する鍵になっています。

CfAはスーパーエンジニアを集めて、行政機関の元でアプリを作りまくるだけではなく、このように政府と市民を繋ぐコミュニティー形成のデザインも行っているそうです。 『オープンガヴァメントには、市民の活動が不可欠であり、「なぜその活動が重要か」を理解してもらうことが不可欠である』と強調されていました。
「CfAの将来的なゴールは?」という会場からの質問に対して、「市民と政府の乖離をなくすこと」だと回答されました。 『市民と政府の間に、両者が交わり協働する場を創る必要がある。政府が何か失敗をした時には、政府だけを悪者にせず、自分たちでできることは自分たちでもやろう、と市民からも働きかける関係を作ることが重要だ』と締めくくりました。

税金はどこへいった?(別のセッションではオープンガバメント・オープンデータの事例として「税金はどこへいった?」も紹介されていました。現在52都市で公開されているそうです。)

 

その他、細々した話。

▶ 「非エンジニアがオープンデータなどを使って貢献する方法は?」(jig.jp 代表取締役社長 福野泰介さんへの質問)

→ オープンデータの話題についてブログを書いて発信すること。オープンデータは改変と再配布が保証されているので、なんらかのデータをエクセルとかで解析してみて、なにか面白い発見やアイデアがあればそれを発信するだけで、開発までできなくとも十分である。あとアイデアソンに参加するとか。

▶ 『行政の人は、オープンデータ・オープンガヴァメントに成功してる土地を視察に行くときは行政の人間だけが見に行ってもダメ。
アプリを作れる人とかセキュリティーをやっている人も一緒に連れて行くべき、見えているものがきっと違うから。』みたいな話も納得で面白かったです。
「オープンジャーナリズム」がさまざまな業種の人でチームを組んで行うのと同様に、オープンガヴァメントを目指す行政もエンジニア・デザイナーなどを交えた混成チームで構成されなければ異なる視点を取り込むことができない。『オープン』とは「多様性」とその「相互作用」を内包した言葉なのだと感じました。 そして、混成チームの作りやすさという意味では「本当のオープンガヴァメントは市民と関係性の近い地方行政から生まれる」という話も非常にエキサイティングでした。鯖江市然り、本当に面白い活動を生む土壌は実は地方の方が都会よりも揃っているようです。ここでも「地方アツい!」というお話でした。

▶ 実はかなりの情報はすでに「オープンデータ」になっている、という話。

各行政のHP上や、統計局のHPなどでも既に膨大な量の情報が簡単に手に入るようになっています。 しかし問題なのは、「見つけにくい」こと。検索もしにくいし(専門的な単語でまとめられているので一般人は検索に引っ掛けにくい)、「生の情報」は非常にわかりづらい(編集の必要性)。
この点に関しては、ブレイシー氏も指摘する「エンジニアリングよりもデザインの問題」になっていると思います。 もしくは、行政によって「情報をオープンにし、誰もがアクセスできる状態」を担保し、そこから先は ”民間企業”が「情報が必要な人に、必要なタイミングで、必要な内容を」届ける、というビジネス的な住み分けができればいいのかもしれません。ブレイシー氏もそういった状態を指して、『「政府」を新しい「市場」だと思ってくれ』と話し、新たなスタートアップ活性化のためのビジネスの場を作ろうとしているそうです。

 

(最後に)いろいろと個人的振り返り

さまざまな事例が引き合いに出されましたが、ひとまずデータの利活用という点においては、オープンガヴァメントとしての政府が公開するデータは「ビジネス」に使うより「統治(government)」に貢献する使い方のほうが効果的ではないかと感じました。

海外では、政府が公開する気象データや土壌データを使って農家向けの収入保障保険を提供する賢いサービスなどがありますが、行政が多く持つデータの性質上、そういったものよりは、教育・医療・地元企業・地域活性化などの地域生活に根ざした分野にこそ親和性が高そうです。

もちろんこれらの分野を民間企業が公開データを使ってビジネスとして提供するというのもアリだと思いますが、そうした時には資本主義的な競争のビジネスというよりは、長い期間をかけてその地域と共に成長していくような社会起業的な形態に近くなるのではないかと思います。逆にそういう形態だからこそ、これから参入の多くなるビジネス分野になるかもしれません。

また、オープンガヴァメントが市民と協働する組織に向かうのであれば、結局最終的に行き着く問題は、「政府と共同する市民コミュニティーをどうやって作るか」というところだと思います。往々にして自己犠牲を伴う社会貢献的な活動にどうやって多くの人を巻き込めるか、動機付けするか。組織形成とかコミュニティーデザインと呼ばれる領域の話です。今も議論されているような問題ですが、少なくともオープンガヴァメントによって達成される「透明性」が高くなっていくにつれ、その土地の市民がやるべきこともはっきりし、適切な動機付けとモチベーションを用意できるようになるのではないかと思います。 (鯖江市やMashup Awards Civic Hackの話は次回へ)

 

<関係記事>

WIRED CONFERENCE オープンガバメントで創ろう豊かな社会|福野泰介の一日一創
・ 東京で「オープンガヴァメント 未来の政府を考える」が開催されました。| 鯖江市市長のブログ
・ WIRED CONFERENCE 2013 OPEN GOVERNMENT 未来の政府を考える まとめ|togetter

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